
人工妊娠中絶に批判的な言動を繰り返している、アメリカのトランプ大統領。最高裁でも「中絶は憲法で認められた権利」という考えが約50年ぶりに覆るなど、アメリカでは“中絶禁止”を進める動きが出ている。その結果、中絶とは違う形で避妊しようと、「パイプカット」手術を受ける若者が増えているという。 【映像】パイプカット手術のイメージ図 パイプカットとは、精子の通り道である精管を縛って切断し、精液に精子が混ざるのを防ぐ避妊手術のこと。実は日本でも一部で広がっているが、今回注目するのは「反出生主義」によるもの。自分がこの世に生まれてきたことだけでなく、子どもを生むことさえも否定する思想だ。 3週間前にパイプカットしたたかしさんは、「子どもを生むか生まないか選択できるようになった。“命のボタン”を押すか押さないか、自分で決めることができる。自分の中の価値観と照らしたときに、押す選択はしない。『子どもを生むことがこの社会にとっていいことなのか』と考えると、僕自身が確実に避妊できる方法として、パイプカットを選んだ」と語る。 「子どもを作らない」と決断し、パイプカットすることの是非。『ABEMA Prime』で、当事者のYouTuberを招き考えた。
■一度パイプカットをすれば「再建は難しい」
木戸クリニック院長の木戸雅人氏は、「精巣で作られた精子が、精液に混ざるにあたって精管を通る。その精管を縛って切ることで、精液の中に精子がいなくなる。男性側の体をいじることで、確実に避妊できる唯一の方法だ」と説明する。 木戸クリニックでの手術時間は30〜40分ほどで、費用は約8万円。受診年齢は平均39歳(20歳〜66歳)、これまで合計229件を手術した。2022年が34件、2023年が33件、2024年が29件で、2025年は7月8日時点で38件と、今年は増えているという。 訪れる人々について、「何人か子どもがいる経済的な理由がある人や、2人目の出産で妻が大変な思いをして、医師から『3人目は絶対にやめなさい』と言われるパターンなどがある」と紹介する。「『性欲が落ちるのでは』と言われるが、基本的に影響は出ない。体調が崩れることも知る限りではない。人体を改造するため、多少の違和感を覚える人もいるが、なんともない人がほとんどだ」。 デメリットもあり、一度手術をすると基本的に元に戻すのは難しい。精管の再吻合手術もあるが、「手術そのものの難易度が高い」「再吻合しても、精管の機能が低下している」といった理由から、通常の方法での妊娠は難しくなるそうだ。 手順としては「本人に『どういう経緯で手術を受けたいのか』や家族の背景を質問し、同意書を取って手術を行う」ものの、「来院した人が『やっぱりやめる』ということはあまりない」という。
■反出生主義から24歳で手術「性欲は悪」「やってよかった」
4年前にパイプカット手術を受けたYouTuber・大チャンネルさん
YouTuberの大チャンネルさんは、4年前にパイプカット手術を受けた。中学時代に精神疾患をわずらい、自らの人生に絶望。20代前半で自身の病気に加え、新型コロナやウクライナでさらに社会への強い不満と不安が強まり、反出生主義思想を抱いた。24歳で災害や戦争のリスクがある社会で子どもを産みたくないと、パイプカット手術を実施。27歳になり、子どもができてしまうという不安から解放され、「100%やってよかった」と話す。 実業家でTikTokerの岸谷蘭丸は、「パイプカットは、人生における性生活の楽しみは残しつつ、子どもは生まない選択だと聞く。子どもが生まれるようなことを何もしなければいいのではないか」と問いかける。
これに大チャンネルさんは、「性欲は理性で抑えられないところもある。僕はメンタルが不安定で、うつっぽい時には性欲をコントロールしにくい。もっと体調が悪くなり、もし性犯罪をしてしまい、子どもが生まれた場合には、不幸に不幸が重なる。コンドームも、うまく着用できて97%で、一般的な避妊率は85%。ピルも99%だが、飲み忘れなどもある」と返した。 最終的には「性欲をなくしたい」と考えているそうだ。「睾丸摘出はリスクが多く、断念せざるを得なかった。食欲に比べて、性欲は社会的に“悪”のイメージがある。禁欲主義ではないが、後ろめたさから性欲を抑えたい」。 ただ、こうした価値観は他人に強要しないそうで、「反出生主義は、『子どもは生まないほうがいい』という他人への押しつけが前提になっているように思える。自分は『あれしなさい』という教育に反抗してきて、その苦しさを人一倍わかっているので、絶対に強要しない」と語った。
■後悔する人も 少子化につながる?個人の判断?
9年前にパイプカット手術を受けるも後悔する香月さん(40代)
パイプカット後に後悔する人もいる。9年前に手術した香月さん(40代)は、オーストラリア在住で、妻と子ども3人の5人家族。自身の年齢・経済状況から4人目の子どもは難しいと判断し、妻と相談の上、9年前に手術を実施した。しかし、手術後の「性行為の際にぶつけたような違和感・鈍い痛み」や「生殖機能という男らしいアイデンティティーの喪失感」から後悔も残っているという。 木戸院長は「精管を切っても、精巣からのテストステロン値は下がらないため、アイデンティティーの喪失感は、おそらく心理的なものだろう。切って満足した人と、喪失感を覚えた人の違いは、メンタル的なものだと思われる」との見方を示す。
パイプカットによる避妊は、認識として広めるべきなのか。岸谷は「最近は個人の選択を大事にして、批判してはいけない空気感があるが、個人的には子どもはみんな生んだほうがいいと思う。子どもを生まない選択肢が広がるのは、国にとっていいことではない。年を取ったときには、誰かが生んだ子どもに世話してもらうのだから、一定の責任はあるのではないか」と反論。 これに大チャンネルさんは「国が『産めよ増やせよ』とするのは嫌いだ。誰かに啓発されたのではなく、自分でいいなと思ってこの道を選んだ。日本は少子高齢化を抱えているが、だからこそ海外からの労働力に頼っている。それも市場原理主義的に、国が介入しなくても、そのままの流れでうまくいく」と返した。 木戸院長は「うちの患者は、経済的な理由が多い。大チャンネルさんのような人が多くなると、世の中は変わってしまうだろう」としながら、「自分が考えて、自分の体にしたことに対して、私は否定するつもりはない。もし保険適用になれば問題だが、あくまで自費診療のうちは個人の自由ではないか」との考えを示した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ae9f23c06e4f351351333987d14ab9317dea2756?page=2
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